2023年12月14日(木)から17日(日)まで、韓国ソウルにて「回」をテーマにした4日日間の日韓デニムイベントを開催します。今回は共にイベントを盛り上げてくださる韓国のデニムブランド“DEMIL MFG”が拠点を置く、ソウル市中区 新堂洞(ジュング シンダンドン)から繊維の町をめぐるリポートをお届けします。
ソウル市中区には、ミシン販売、パターン屋、縫製工場など、服を作るために必要なありとあらゆるものが集まっています。なぜこんなに沢山の繊維関連の工場が、小さなエリアに集まっているのでしょうか?
まずはじめに、町の歴史からこの土地の背景をめぐってみます。
町の歴史
今から約600年前の朝鮮時代初期、都を守るために東西南北にそれぞれ四つの城郭門が築かれました。それが東大門、西大門、南大門、北大門です。
その中の一つ、東大門(トンデムン)は「眠らない町」とも称される、問屋市場とファッションビルが共存するファッションの街です。この東大門を中心に、繊維工場が集まり、今回案内していただいた中区もこのエリアにあります。
中区の工場地帯には、ある小さな門がありました。
「光熙門/광희문:クァンヒムン」別名、屍軀門(シグムン)と呼ばれていた門は、まさに死体を運ぶときに通られたという場所。
四大門は上流階級の人しか通れなかった門だったのに対して、このフンインムンの周りは庶民が暮らすエリアでした。細い道が多く、移動手段が困難だったため、ぎゅっと近くに工場が集まったのだそうです。
この小さな町を歩くと、服づくりに関わる看板が至る所に見えてきます。
生地~裁断~縫製~洗い加工~仕上げ~市場に出荷するまで、わずか1日で生産が完了する仕組みになっていて、現在も24時間体制で動いているそう。日本では考えられないスピードです。
この日見学させていただいたのは、中区の縫製工場と仕上げ工場です。
縫製工場
お訪ねした縫製工場は、パンツの縫製をメインされています。
この日も大量のデニムたちが縫い上げられていました。
縫製スピードもかなりの速さ。つい「おぉ~」と声が出てしまいます。
裁断スペースです。
裁断された生地がたくさん重なっています。壁にはたくさんの型紙が並んでいました。
服を作るとき、生地に芯を貼るという作業があります。
服を作るとき、生地の伸びの防止や強度を確保するため、生地に芯を貼る工程があります。
デニムの裏地へ、アイロンで貼れる薄い布を付けます。
備後では、帯(ウエストバンド)の巾を附属屋さんにカットしてもらってロール芯を作ります。そして、帯のサイズごとにカットして芯を貼るという工程で作ります。
それに対して韓国では、帯に関してサイズごとに裁断せずにできるだけ長く裁断して、そのパーツを芯貼りの機械に入れて貼ります。
効率を上げるための方法だそうですが、縫製の仕方でも、地域ごとの違いが見えてきます。
こちらは特大ラッパ。ラッパとはミシン用のアタッチメントです。
パンツ以外にもレディースの服など多種多様な服を作る工場なのでラッパの種類も豊富です。
日本では、縫製工が減少傾向にあり工場には外国人の縫い子さんが多い中、韓国では地域の方がほとんどということでした。ちなみに、韓国での最低時給は1,500円~と人件費は高いのですが、工賃は日本に比べると安いという現状があるそうです。
柄+柄がとっても素敵。
お忙しい中見学させていただき、ありがとうございました。
仕上げ工場
仕上げ工場では、縫製工場から上がってきた商品に、ボタン付け、アイロンなどをし、商品として納品されるまでの状態にしていきます。
ちなみに韓国語でも日本語と同じく「시야게:シヤゲ」といいます。
その他にも「시루시:シルシ(印)」等、日本語の用語も少なくありません。
(窓に書かれた“シヤゲ”の文字、見つけられましたか?)
地域の背景で書いたように、韓国では生地~裁断~縫製~洗い加工~仕上げ~市場へと24時間体制で商品が流れていきます。
生地や仕上がったものを運ぶ人たちが大きく分けて7〜18時/17〜26時の2パターンあるそう。
夜に市場が開く東大門に合わせて、こちらの仕上げ工場では夕方17〜朝5時まで稼働します。
この道は配達車専用の道。この奥を進むと配達専用の扉が現れます。
ここで荷物の受け取り作業が昼夜行われています。
扉の中へ入り、物流レーンのある階段を下ると工場が現れました。
この工場ではほとんどが自動機械。
人件費が上昇していることと、韓国の빨리빨리(パリパリ)文化が関係しています。
このパリパリとは「早く早く」という意味でせっかちな方が多いと言われている韓国では何事もスピードが命。工場の中を見ても配達時間を見てもスピードを感じます。
配達された商品たちは、まずボタン付けをします。
沢山の種類の機械が並んでいますが、発注数の多いブランドは専用の機械が用意され、それぞれのブランドによって異なる設定がされているそう。
誰が担当になっても簡単にできるよう、機械ごとに設定をしてあります。設定する時間も手間も短縮、これぞパリパリ文化。
こちらは革パッチ専用ミシン。もちろん自動。
こちらは余分な糸をカットし仕上げていくスペース。
先を見るとカッターとリッパーが付いています。
こちらはフラッシャーを付ける機械。
デニムでは「フラッシャー」と呼ばれるブランドネームの入った紙がポケットによく取り付けられていますよね。
今回のイベントから限定販売をスタートする、DEMILとのコラボデニムにもDEMILオリジナルフラッシャーがついてますよ 🙂
アイロンをかけるスペース。壁にはブランドごとの織りネームが。
そしておもしろかったのが、工場内の床のこと。
この工場の床はすべてカーペットが敷かれています。車と一緒で、このカーペットに糸くずや繊維のほこりなどがくっつき、埃が舞わないんだそうです。なるほど。
アメリカの工場ではこのようにカーペットが敷かれているのが主流なんだとか。アメリカの工場で働いた経験のある社長さんは、このように全てのフロアにカーペットを敷いています。
ちなみにフローリングの場合はオイルを塗れば舞いにくくなるそうです。
お忙しい中見学させていただき、ありがとうございました。
中区 衣類・ファッション支援センター
国が運営する施設で、中区の衣料事業者は登録すれば裁断機(CAD・CAM)を無料で使えるというもの。
リードタイムの短縮、裁断品質の向上、コスト削減、サンプル製作や少量生産を希望する方へ向けて利用を促進することが出来、この町に関係者人口も増やすことが出来る。2019年から出来た施設です。
とても人気があるそうで予約取るのが大変なんだとか。
韓国は日本に比べるとブランドの数が多くあります。
このような施設があると、若い方も開業資金を抑えて事業を始めやすい環境にあることがわかります。
番外編・町を歩いて発見したこと
町を歩いていると至る所にある、ビルに付いた小さな煙突からの煙。これはスチームアイロンの煙。
煙突があれば繊維関係の会社であることが一目でわかるそうです。
ついつい上を向いて歩いてしまいます。
そして至る所で裁断したパーツや生地を運んでいる人とすれ違います。
日本の繊維産地では車で運ぶのが当たり前ですが、この小さな町にたくさん集まっているからこその風景ですね。
バイクに取り付けられた荷台。これも生地を運ぶためでしょうか。
道端に座り込んでいるこの方は、裁ちばさみを研いでくれる人とのこと。
工場の近くに座り込んで、色んな工場のはさみを研いでいるのだとか。おもしろい。
最後に、
今回の工場見学の案内人はイ・ドンファさん
この町でプロモーターとして活躍をされています。ものづくりのことならイさんに聞けばなんでもわかるプロフェッショナル。なんと日本の文化服装学院にも3年間通われていたのだとか。
日本では工場巡りをするときは車移動が必須ですが、歩けば工場に当たるといわんばかりに徒歩で町を巡るのは新鮮で楽しい時間でした。
工場の皆さま、イさん、DEMILの皆さま、この度は貴重な機会をありがとうございました。
今回紹介した町も日本同様、この10年ほどで関連工場が減ってきているそうです。
最近では、韓国で唯一、糸からロープ染め、製織まで一貫生産できる工場が閉鎖されました。
デニムというアイテムを通して私たちは何を残すことが出来るのでしょうか?
12月のソウルでのイベントに協力してくださっているDEMIL MFGの商品は、今回紹介した工場で量産しているラインと、DEMILの小さな工場で作られているアトリエラインがあります。
大量のアーカイブからデニムへの探求、デニムスクール開講で次世代との繋がり、製造と品質をこだわり抜く、唯一無二のブランドであると思います。
イベントにて限定販売されるDML X ODP LIMITED EDITIONはDEMILのアトリエで一つ一つ丁寧に作られてました。
日本でのお披露目はありませんが、いつか日本の皆様にもお披露目できる日が来るといいなと思っております。
そんなDEMILの皆さまが広島備後の繊維産地へお越しくださった様子もYouTubeにてご覧いただけます。
①
生地工場:篠原テキスタイル/
縫製工場:ミルクリエイト/デニムスクール:HITOTOITO/REKROW
②
生地工場:カイハラ
https://www.youtube.com/watch?v=Sey31I_MpD0
③
洗い工場:四川/藍染:藍屋テロワール
https://youtu.be/HeDZRU3l9tM?si=bbrXaUbyj08pFJpS
④
尾道
https://youtu.be/xQZbaWfTbgg?si=0HjWJOGLSnn5bMdc
“回” Japan and Korea DENIM Exhibition
テーマは「回」
めぐる、回帰、時を刻む
近くて遠い国、日本と韓国。
それぞれの国に長い間培われたものづくりの技術・手立てがあります。
そこで生み出されたものたちへの愛情をこれからもたくさん注いでいけますように。
長い長い記事を最後まで読んでくださりありがとうございました。
ものづくりをする方への尊敬を込めて
Reporter:WATAYOSHI KYO
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“回”Program
place: Seoul Jongno-gu hyoja-ro 7-gil 22-16(종로구 효자로7길 22-16) 〈parlour〉
👖 Exhibition
date: 2023 12.14 (thu) – 12.15 (fri)
open: 12:00 – 17:00
reception party: 18:00-
🧵 Fitting event
date: 2023 12.16 (sat) – 11.17 (sun)
open: 11:00 ~ 19:00
place: Seoul Jongno-gu hyoja-ro 7-gil 22-16(종로구 효자로7길 22-16) 〈parlour〉
✄ work shop
key chain & hodoki by REKROW
🪡 guest (sunday only) 14:00 ~
live 刺し子sashiko by JunAle